光沢 毅
飯田長姫 (長 野) |
昭和29年春、長野県内でも目立たず全国的にはまったく無名だった飯田長姫(おさひめ)が大会出場校に選抜された。大会に入ると身長157cmの小さな左腕投手・光沢毅が大活躍、4試合でわずかに1失点という快投で長野県勢初の選抜大会優勝に導いた。「小さな大投手」と称され一世を風靡する。
有名校・名門校をなぎ倒す快進撃
29年春の選抜大会、いきなり初戦(2回戦)の対戦相手は名門・浪華商(大阪)だったが、虎の子の1点を光沢が守り抜いて4安打完封、1対0で初勝利。準々決勝の対戦相手は、須藤豊(大毎→巨人)を擁する強豪の高知商だったが、2安打1失点の完投勝利。接戦を2対1でものにした。迎えた準決勝は、西園寺昭夫(のち東映→阪神→産経)の熊本工を相手にふたたび完封、6対0で快勝してついに決勝進出を決めた。
▼昭和29年選抜大会・2回戦 (浪華)藤田徳男、谷本隆路 (飯田)光沢毅
浪_華_商 | . | 000 000 000=0 | 飯 田 長 姫 | . | 000 100 000=1 |
▼昭和29年選抜大会・準々決勝 (飯田)光沢毅 (高知)片田謙二
飯 田 長 姫 | . | 001 010 000=2 | 高_知_商 | . | 000 000 001=1 |
▼昭和29年選抜大会・準決勝 (飯田)光沢毅 (熊本)添島時人
飯 田 長 姫 | . | 060 000 000=6 | 熊_本_工 | . | 000 000 000=0 |
無名・飯田長姫の初優勝
決勝は、2年生エースの畑隆幸(西鉄→中日)を擁する小倉(福岡)と対決。光沢は、初回いきなりのピンチを迎えた。先頭打者から安打と四球を許し、次打者のバントが内野安打になって無死満塁。しかし、打球を処理した光沢は二塁走者の離塁を見逃さず、すかさず二塁へ送球しタッチアウト。さらに三塁にも転送され、本塁を狙った三塁走者も刺してピンチを切り抜けた。3回にも1死満塁のピンチをまねいたが、巧みな投球術でスクイズを見事にかわして、ここも無失点で切り抜けた。そして4回の飯田長姫は、光沢が安打で出塁、清水・小林の連打で決勝となる貴重な1点を挙げる。その後は両軍とも無得点のまま試合終了、南アルプスのふもとから初めて甲子園にやってきた飯田長姫が初優勝の栄冠に輝いた。
▼昭和29年選抜大会・決勝 (飯田)光沢毅 (小倉)畑隆幸
飯田長姫 000 100 000=1
小__倉 000 000 000=0 ※飯田長姫は初優勝。
鉄腕・中島治康の松本商(現・松商学園)によって深紅の優勝旗が初めて日本アルプスを越えたのが昭和3年。飯田長姫によって紫紺の大旗が初めて長野県に渡るのは26年後のことだが、長野県勢が甲子園大会を制したのはこの2度だけである。飯田長姫は、昭和10年に旧・飯田商時代に1度だけ選手権出場(1回戦敗退)しているが、このセンバツ初出場・初優勝以来、春夏通じて甲子園出場は果たしていない。
甲子園での投手成績
大 会 | スコア | 対戦相手 | 備 考 |
昭和29年春 | 2回戦 | ◎01-0 | 浪_華_商_ | 完封勝利(1):4安打4奪三振 |
| 準々決勝 | ○02-1 | 高_知_商 | 完投勝利:2安打6奪三振 |
| 準決勝 | ◎06-0 | 熊_本_工 | 完封勝利(2):6安打9奪三振 |
| 決_勝 | ◎01-0 | 小___倉 | 完封勝利(3):7安打5奪三振 (選抜優勝) |
小さな大投手とテレビ放映
浪華商(現・大体大浪商)、高知商、熊本工、小倉という甲子園の常連校を次々になぎ倒す快進撃で、4試合をわずか1失点、3完封で立役者の左腕・光沢毅は、試合後にグランドでインタビューを受け「小さな大投手」とたたえられた。テレビ放映が開始された大会でもあったが、その縁かどうかは知らないが、のちの甲子園大会ではNHK高校野球中継の解説者としてお馴染みになった。
明大、三協精機でプレイしたが、のちに交通事故で失明するなど不遇な人だった。還暦も過ぎてから、明大の替え玉受験に絡んで逮捕された事件はいただけなかった。
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昭和29年春=優 勝
甲子園通算成績 4勝0敗 3完封
明大→三協精機 明大監督、三協精機監督
NHK高校野球解説者 |