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28 春の奪三振王 備 考
岸本 正治

第一神港商
(兵 庫)
前年春、西垣徳雄投手(法大→ロッテ監督)を擁しての初優勝の後を引継いで、第一神港商(現・市神港)を選抜大会連覇に導いた豪腕投手が岸本正治である。大会54奪三振は怪物・江川に破られるまで堂々の選抜大会記録だった。

19奪三振の鮮烈デビュー
連覇を狙ってのぞんだ昭和5年春の選抜大会、1回戦は一宮中(愛知)を2対0完封の好発進。岸本は19奪三振、1安打完封の鮮烈デビューだった。岸本がこの大会で作った奪三振の選抜大会記録を43年後に塗り替える怪物・江川の甲子園デビュー戦が奇しくも選抜1回戦で19奪三振の完封劇でスコアも同じ2対0である。
続く準々決勝の高松中(香川)も15奪三振で2試合連続の完封、4対0で快勝して準決勝へ進出する。

▼昭和5年選抜大会・1回戦 (一宮)杉本 (神港)岸本正治
__中 000 000 000=0
第一神港商 011 000 00X=2

▼昭和5年選抜大会・準々決勝 (高松)田淵 (神港)岸本正治
__中 000 000 000=0
第一神港商 030 101 00X=5

史上初の選抜大会連覇
準決勝は7年前に夏を制している甲陽中(兵庫)との兵庫県勢同士の対戦となったが、10奪三振、4対2で制して、2年連続の決勝進出を果たす。
迎えた決勝は、5年ぶりの選抜制覇を狙う松山商(愛媛)と対決したが、序盤3回に松山商・矢野投手を打ち崩し4点を奪って、その後も追加点を入れて一方的にリード、岸本は4試合連続の2桁奪三振となる10奪三振で完投、6対1で勝利。史上初の選抜大会連覇を達成した。

▼昭和5年選抜大会・準決勝 (神港)岸本正治 (甲陽)浜辺
第一神港商 020 200 000=4
__中 010 010 000=2

▼昭和5年選抜大会・決勝 (松山)矢野 (神港)岸本正治
__商 000 000 001=1
第一神港商 004 010 01X=6
※第一神港商は2年連続2回目の選抜大会V。

大会通算54奪三振
岸本はこの大会、1回戦・一宮中=19奪三振、準々決勝・高松中=15奪三振、準決勝・甲陽中=10奪三振、決勝・松山商=10奪三振。4試合合計で54奪三振、1試合平均の奪三振が13.5という快投だった。大会通算54奪三振は、昭和48年に作新学院の「怪物」江川卓(4試合60奪三振)に破られるまで、43年という長きに渡っての選抜大会記録であり、岸本はまさに春の奪三振王だった。

兵庫県勢が2年連続3校出場
昭和5年、6年の兵庫県勢は、2年連続で第一神港商、甲陽中、明石中の3校が甲子園出場している。昭和5年の甲陽中は準決勝で、昭和6年の明石中は初戦で、いずれも岸本正治のいた"同県勢"の第一神港商に当たって敗退。昭和5年は、第一神港商が優勝、甲陽中がベスト4、明石中がベスト8入りして、3校で7勝(他県との対戦は6勝1敗)の好成績を残した。
戦前の選抜大会は地域に関係なく強いチームを選ぶことが徹底されていたため、愛知・大阪・和歌山・兵庫などの強豪の府県から3校出場することも珍しくなかった。昭和8年の和歌山県勢は海草中、和歌山商、海南中、和歌山中の4校が出場。昭和8年から12年にかけて愛知県勢は5年連続で3校以上が出場しており、昭和12年は中京商、東邦商、享栄商、愛知商の4校出場を果たしている。

春3連覇の夢は夏3連覇の中京商の前に潰えた
昭和4年・5年は、第一神港商が春を連覇、広島商が夏を連覇した。昭和6年の選抜大会、春3連覇を狙う第一神港商と夏春連覇を狙う広島商の直接対決は成らなかった。両校の間に割って入ったのは、昭和6〜8年夏3連覇の中京商だった。
昭和6年春、ふたたび選抜大会に出場した岸本は、1回戦の静岡中を11奪三振の2安打完封7対0。2回戦の同郷対決は楠本保の明石中と接戦の末、5対4のサヨナラ勝ち。

▼昭和6年選抜大会・2回戦 (明石)楠本保 (神港)岸本正治
__中 300 000 100=4
第一神港商 200 000 021X=5

準々決勝で吉田正男の中京商と対戦したが、0対3で完封負けを喫して夢は潰えた。結局、鶴岡一人(法大→南海)、灰山元治(慶大→太陽レーヨン→ライオン)がいた広島商が中京商を破り夏春連覇している。昭和6年夏は、初戦(2回戦)、景浦将(立大→阪神)や三森秀夫(法大→巨人)の松山商に0対3で敗退。

甲子園での投手成績
大 会スコア対戦相手備 考
昭和4年春1回戦◯01-0___先発:0/3 (走者2人を出し西垣に交代)
昭和5年春1回戦02-0___完封勝利(1):1安打19奪三振
準々決勝05-0__完封勝利(2):2安打15奪三振
準決勝04-2__完投勝利:5安打10奪三振
_06-1__完投勝利:3安打10奪三振 (選抜大会連覇)
昭和6年春1回戦07-0___完封勝利(3):2安打11奪三振
2回戦05-4__完投勝利:4安打7奪三振 (サヨナラ勝ち)
準々決勝00-3__完投:7安打9奪三振
昭和6年夏2回戦00-3___完投:8安打5奪三振

岸本はのちに慶大を経て阪急でプレイしている。選抜大会優勝時のチームメートに後藤正(慶大→名古屋)がいた。
昭和2年夏=1回戦(登板なし)
昭和4年春=優 勝(投手=西垣)
昭和5年春=優 勝
 (大会通算=54奪三振)
 (対一宮中=19奪三振)

昭和6年春=ベスト8
昭和6年夏=2回戦

甲子園通算成績
 6勝2敗
 3完封
 選_抜6勝1敗
 選手権0勝1敗

慶大→阪急
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