プレイボールからすでに3時間が経過、延長15回を終わって両軍得点なし。まさに激闘。まだまだ興奮が覚めやらない、ここ阪神甲子園球場ですが、試合はまだ終わってません。三沢高校ナインが16回の守りに散って行きます。松山商業の攻撃は4安打の7番西本から始まります。
[16回表]松山商
先頭打者の7番西本が2−2から真ん中低めいっぱいのストレートを呆然と見送った。ストライク!三振でまず1死。太田の怒りとも取れる快速球が唸りを上げたのであります。1死後、8番平岡は粘って四球を選び一塁に歩きました。《ここは得点圏に確実に走者を進めて、キャプテン大森に回したい。》しかし、9番田中は太田の気迫に圧倒されて3バント失敗(記録は三振)で2死一塁。《何としても得点圏に走者を進めたい。一色監督は平岡に対して初球からスチールのサイン。》大森への初球に平岡がスタート、二塁にヘッドスライディングを試みるも八重沢にタッチされて盗塁失敗。松山商業は三者凡退で無得点。
[16回ウラ]三沢
この回の先頭打者、2番の小比類巻が四球で一塁に歩いたところから、球場内は再び異様な雰囲気に包まれる。《田辺監督は3番太田に送りバントを指示。》明らかに井上の様子がおかしい。当然、疲労もあるでしょう。15回ウラの追い詰められた状態を引き摺っているのでしょうか。気持ちの切り換えができないまま、小比類巻を歩かせた感じです。《松山商・一色監督はここで背番号9の中村をブルペンに走らせた。中村は準決勝の若狭戦、5回途中で交代させられた井上をリリーフして勝ち投手になっている。》3番太田はバントの構えから初球をファウル、2球目のストライクを見逃して簡単に2−0と追い込まれました。《拙攻続きの三沢・田辺監督は太田に3バントを指示する。今度こそ得点をむしり取りに行くという決意の采配だ。》太田は3球目に見事送りバントを成功させました。さあ、三沢高校。再びサヨナラの走者をスコアリングポジションに進めました。
1死二塁として、4番桃井は初球のカーブを積極的に打って出た。この場面で、信じられない出来事が起こった。まるで前回の立花の打席をスローVTRで見ているような打球が、井上のグラブの先をかすめるように遊撃手樋野の前に転がっている。二塁走者の小比類巻が進塁は無理と判断、二塁ベースに戻りかけたときだった。当たりは平凡なゴロだったのだが、度重なる走塁で荒れたグランドでイレギュラーバウンドした打球が樋野の差し出したグラブの僅かに下をくぐり抜けていった。トンネルだぁ!好守を見せてきた名手樋野にエラーが出ました!打った桃井は一塁へ、小比類巻は三塁に進塁して1死一三塁。何ということだ、井上投手がまたまた崖っぷちに立たされました。
前回と同じように、松山商業は満塁策。5番菊池を敬遠の四球で歩かせた井上は、もう今にも泣き出しそうな表情です。三沢高校はまた1死満塁!絶好のチャンスを迎えています。三塁走者の小比類巻がホームを踏めばサヨナラ勝ちで三沢高校の初優勝となります。打席には6番の高田。井上はまず一球、三塁の谷岡へ牽制球を投げました。《15回ウラは二の足を踏んでスクイズせず、拙攻でチャンスを潰した三沢は必ずここではスクイズしてくる。一色監督はもちろん、井上−大森バッテリーもその気配を敏感に感じ取っていた。》
井上はまた1球、2球とスクイズを警戒しながら外角に外してカウント0−2。まったく15回と同じである。三塁側のアルプスは割れんばかりの大歓声。3球目の内角ストレートを高田が見送って1−2。大森捕手は忙しく左右のベンチに目配りしている。《1−3にはできないからストライクが来ると読んで次の球でやってくるのか。しかし、動きはなさそうだ。初球、2球目とスクイズ警戒の姿勢を見せたことが功を奏したのかも知れない。》再び三塁牽制で様子を伺った井上は真ん中低めにストライクを取りに行く。高田が打ちに行ったが右翼線へのファウルとなってカウント2−2。
高田がファウルボールを打ち、仕切り直しになったときだった。《三沢・田辺監督がとうとう動いた。さり気なく右手で左腕を触った。スクイズのサインだ。カウント2−2でスリーバントスクイズを指示したのである。》三塁走者の小比類巻は「読まれている」ようないやな感じがしていた。三塁コーチャーの河村も同じことを感じていたが、この局面では足がすくんでタイムをかける勇気はなかった。一方、井上−大森バッテリーもスクイズが来るという雰囲気を感じ取りながら、確信はなかった。次の瞬間、それは確信に変わる。ベンチの一色監督が、やれやれといった仕草で帽子を取ってみせたのだ。《ウェストしろ(外せ)のサインである。百戦錬磨の指揮官はすべてを見抜いていた。敵の指揮官がこの試合初めて出したスクイズらしきサイン。直後に三塁走者の小比類巻と打者の高田がお互いにヘルメットのひさしに手をやりながら一瞬見合ったことが決め手になった。まさかこの局面で、こんなあからさまにサインを交換するなんて‥‥一色にはとても信じ難いことだった。》
事態は一変する。井上が思いきりウェストした球に、高田のスクイズは見事空振り。スリーバントスクイズをバッテリーが外したぁ!!大森が三塁送球、小比類巻が三塁に戻っていきますが、寸前でタッチアウト!三振ゲッツーで3アウト。見破られていると直感した小比類巻がスタートを遅らせたため、本塁には突入できなかったのである。これで、話はまだ終わらない。実は、タッチした谷岡三塁手のグラブから球がこぼれ落ちていたのだ。明らかな落球で三塁走者の小比類巻はセーフなのだが、三沢高校は完全にツキに見放された。山川三塁塁審はアウトを宣告後、すぐにクルリと後ろを振り向いてしまったために、谷岡の落球を見ていなかった。3アウトチェンジなのにその場で立ち往生する谷岡三塁手。落球をはっきり目撃した三塁コーチャー河村がアピールするが、認められず、攻撃は終了してしまう。
この大事な局面で、普段からの緻密な野球が功を奏した松山商業。三沢高校はギリギリまで追い詰めながら最後の最後に詰め切れませんでした。16回を終わって依然として0−0。
※本文中の《青文字》はベンチの采配・作戦の狙いをシミュレーションしています。
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