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8月19日。昨日の激闘に熱狂した高校野球ファンが今日も朝から甲子園球場に詰めかけました。すでにスタンドは超満員の5万5千人。昨日よりもさらに晴れ上がった紺碧の空に両校の校旗が浜風でひるがえっています。両校は、ひとりも交代せず闘った昨日の18人とまったく同じ先発メンバー。只今、午後0時59分。両校の選手が再び本塁前に合い見えました!ご覧ください、両校ナインのユニフォームは20時間前の激闘で泥と汗にまみれたままであります。決勝戦の再試合がプレイボールです。(以下、再試合はダイジェスト版)

[1回表]松山商=2
1番大森三振。2番福永が右中間に落ちる安打で出塁。1死一塁で3番樋野。昨日、最終回の守りで負傷した右脛は包帯でグルグル巻きという満身創痍での打席だ。樋野への1球目から一塁走者の福永が走るぞ走るぞという構えで三沢バッテリーを揺さぶっている。2球目、盗塁警戒の小比類巻が太田にウェストボールを要求。ところが、太田が外角へ外しに行った力のない半速球は、よりよって内角を得意とする樋野が待ち構える内角へスーッと入ってしまった。見逃せばインハイの完全なボール球、これを樋野が強震した。打った−!!レフトへ低い弾道でグングン伸びていく!!ファウルかフェアか?切れなければ入るか!!入ったぁー!!ホームラン!!樋野の2点本塁打が飛び出しました。最初は痛い足を引き摺りながら全力疾走していた樋野でしたが、山川塁審の手が回ったのを確認すると初めて速度を緩めてダイヤモンドを一周します(勿論、当時は派手なガッツポーズは御法度、込み上げる嬉しさをグッとこらえて三塁を回る。初回だというのに真っ黒なユニフォーム姿が印象的だ)。右手を差し出す次打者の谷岡に出迎えられて今、樋野がホームイン!!両軍通じて19イニング目の初得点は松山商業に2点が入りました。
[1回ウラ]三沢=1
▼決勝=再試合
松山商(北四国・愛媛)
_
_
_(北奥羽・青森)
1番八重沢三ゴロ。2番小比類巻は三沢初の長打となる右中間三塁打。1死三塁で3番太田遊ゴロ。2死三塁となって、4番桃井が意地を見せた。球威のない井上の球を見事左前に運んでタイムリー!三沢高校も1点を返しました!な、何ということだ。昨日は18回を闘って、ホームを踏むシーンがついに一度もなかった両軍が、初回からいとも簡単に点を取り合うではないか‥‥。続く5番が三塁ゴロ失策で出塁してなおも2死一二塁、井上が1球投げたところで、一色監督は早くも投手交代を告げる。先発井上を右翼へ、右翼の平岡をベンチに下げ、左腕中村をマウンドに送りました。6番高田が四球を選び満塁とするが、7番谷川が空振り三振。松山商業の投手交代が功を奏し、その後、太田・中村の投げ合いでまた膠着状態へ。松山商2−1三沢(5回終了)
[6回表]松山商=2
▼決勝=再試合
松山商(北四国・愛媛)
_200 002
_100 00
_(北奥羽・青森)
1番大森左飛。2番福永が三遊間を破って出塁。続く3番樋野がまた内角球を叩いて三塁オーバーの二塁打。1死二三塁で4番谷岡を迎えた場面で、主将河村が初めてタイムを取りマウンドの太田に駆け寄る(春センバツ出場時まで河村は正捕手だった)。しかし、カウント1−2からの4球目に三沢バッテリーに手痛いミスが出てしまう。太田が力んで投げた直球が外角に低く外れて小比類巻が後逸。福永が生還、松山商業は労せず3点目。さらに2死三塁から谷岡が放った一塁後方への小飛球に背走しながら回り込んだ二塁手滝上が落球(記録は失策)して樋野も帰り4点目。無失策で来た三沢は守りのミスを重ねて3点差を背負った。
[7回ウラ]三沢=1
▼決勝=再試合
松山商(北四国・愛媛)
_200 002 0
_100 000 1
_(北奥羽・青森)
先頭の6番高田が四球で出塁。7番谷川が2球目を三塁側へセーフティバント。ダッシュしてきた谷岡が強肩で一塁に刺して1死二塁。8番滝上が中前安打を放つと、二塁走者高田がコーチャーの静止を振り切って本塁突入を図る。ランナーが三塁を回った!センター田中がバックホームだ!おっと、返球がマウンド上のプレート付近を直撃して方向が変わったぞ。球は三塁側ベンチ前に転々としている!高田がホームイン、三沢1点を返しました。4−2で松山商業のリードは2点。打った滝上はその間に二塁へ進んでなおも1死二塁。
一色監督は、右翼に下がっていた井上を再びマウンドに呼び寄せました(中村は右翼へ)。9番立花は投手強襲の二ゴロで2死三塁。《1番八重沢を打席に迎えて、松山商業の外野陣は右寄りの守備位置にシフトしている。中堅手の田中は思い切って右中間近くまで移動した。井上はここも徹底して八重沢が苦手とする外角カーブで勝負してくる。制球のよい井上をマウンドに戻したからこそできる緻密な野球だ。》はからずも、1−1からの3球目を打った八重沢の打球は昨日の延長15回ウラと同じように右中間方向を襲う痛烈なライナー。打った瞬間は誰もが「抜けた」と思ったが、右中間寄りに守っていた中堅手田中が右に走って追いつき、ことなきを得た。通常の守備位置だったら間違いなく間を抜かれて1点差、同点の走者もスコアリングポジションに進んでいただろう。猛ノックで鍛練された伝統の守りが勝利をグッと引き寄せた瞬間だった。
[9回ウラ]三沢=0
▼決勝=再試合
松山商(北四国・愛媛)
_200 002 000=4
_100 000 100=2
_(北奥羽・青森)
この再試合、9安打で4点を許した三沢・太田は与四球1の完投。奪三振8、投球数は114だった。2日間に渡った合計27イニングの激闘もついに松山商業2点のリードで9回ウラを迎えた。三沢高校の先頭打者は5番菊池。松山商業のマウンドには8回から再び左腕中村が上がっている。菊池はファウルで粘ってフルカウントとなったが、最後はアウトハイのボール気味のストレートに空振り三振。6番高田は外角カーブを巧打したが一塁手西本の正面に飛ぶライナーで2死。《田辺監督はここで7番谷川に代えて、背番号10の主将河村を代打で起用。最終回の三塁コーチャーは初めから副主将の桃井が入っていた。》初球、2球目と外角ストレートはボール。3球目の真ん中ストレートは右翼線へのファウルボール、4球目高めのカーブを見逃してカウント2−2。そして最後は5球目の真ん中高めに入ってくるカーブを河村が打って出た。セカンドゴロ!!三沢高校、万事休す。福永が取って一塁の西本へ送球はアウト!!試合終了!!午後3時6分、ついに試合終了!!

中村投手、大森捕手を中心に歓喜の輪が出来ています。27イニングに及ぶ激闘の決勝戦は、愛媛・松山商業が4−2で青森・三沢高校を下して、夏の全国高校野球2,523校の頂点に立ちました。松山商業は16年ぶり4回目(戦後3回目)の選手権大会制覇。春夏合わせますと実に6回目の優勝を達成したのであります。再試合は井上・中村両投手のジグザグリレーで三沢高校打線を翻弄、わずか4安打に押さえての快勝でした(与四球3、奪三振6)。おめでとう、松山商業!!そして惜しくも初の全国制覇を逃した三沢高校、胸を張って地元青森に帰ってください。高校野球ファンは決して君たちを忘れはしません。両校が繰り広げた延長18回引分再試合は「激闘の記憶」そして「栄光の記録」として永く後世に語り継がれることになるでしょう。

翌20日の朝日新聞(朝刊)は「太田、27イニング力投もむなし」という大見出しで次のように伝えています(一部抜粋)。
〜松山商の堅陣破れず〜「精いっぱいやった」太田
「投げろといわれれば、まだ投げます」。四日間連続、計四十五イニングをひとりで投げぬいた三沢の太田幸司投手は、決勝再試合の直後、けろっとしていってのけた。甲子園球場のインタビュールーム。そこだけ白いひたいの汗が、ほおを伝ってアゴの先からポタポタ落ちる。「一回樋野君にホームランされた球ははずそうと思ったのが中途半端に内角高目へ行ってしまった失投でした」。

日本中を熱狂の渦に巻き込み、悲劇のヒーローとなった太田は、元祖甲子園アイドルとして一躍人気を集めました。その人気は止まるところを知らず、翌年近鉄バファローズに入団するとプロ野球オールスター戦のファン投票で堂々パ・リーグ1位に選出されるフィーバーぶりだったことをお伝えして、戦後スポーツ史の奇跡とされた稀有の名勝負物語を結ぶことにします。

長文にもかかわらず最後までおつき合いくださった読者の皆さん、お疲れさまでした。そして、ありがとうございました。(完)


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